以下、閉鎖した月配列紹介サイトの文章を一部修正したものを再掲する。
月配列とは
中指前置シフト新JIS「月配列」やはてなキーワードが詳しいので細かい解説はそちらに譲りますが、 ここには私なりの解釈を書きます。
月配列とは、主にホームポジションの中指 (派生配列によっては中指に加えて薬指) にシフトキーの機能を持たせ、シフトキーと同時押しではなくローマ字のように連続して打つ日本語入力配列です。 月配列はいろいろな派生が存在しますが、現在多くの実績及びベンチマークの元となっているのは 2-263 式と呼ばれるものです。 以下、特に注釈しない場合、「月配列」と呼称した場合この「月配列 2-263 式」を指すものとします。
JIS かなとの比較
JIS かな: JIS キーボード上の 4 段すべてのキーを使用しかな文字を打鍵する。 一部の文字は Shift キーと同時押しして入力する。
月配列: JIS 若しくは US キーボード上の 3 段のキーの殆どを使用して文字を打鍵する。 一部の文字はホームポジション中指にあたる D 若しくは K を押下してから、対象のキーを押下する。
配列図
通常の状態 (中指シフト非押下時)
1|2|3|4|5|6|7|8|9|0| |
そ|こ|し|て|ょ|つ|ん|い|の|り|ち|
は|か|☆|と|た|く|う|☆|゛|き|れ|
す|け|に|な|さ|っ|る|、|。|゜|・|
☆のキーは月配列における Shift キーです。 中指で押下される為中指シフトと呼称されます。 左右の Shift キーには機能差はありません。
この状態から直接打鍵できるかなは全て「一般的な日本語において出現頻度の高いもの」で揃えられています。 例えば「どうしてそんなこというのか。ここにきてくれなくてはつぎにいけないではないか」は全てこの面のみで入力可能です。
尚、「・」にあたるキーは US キーボードには存在しません。 「てん」と入力して変換すれば入力できるので実用上は問題ありませんが、後述する DvorakJ にて他の空いているキーに割り当てることもできます。
中指シフト押下後の状態
| | | | | | | | | | |
ぁ|ひ|ほ|ふ|め|ぬ|え|み|や|ぇ|「|
ぃ|を|ら|あ|よ|ま|お|も|わ|ゆ|」|
ぅ|へ|せ|ゅ|ゃ|む|ろ|ね|ー|ぉ| |
前述の中指シフトのキーを押下した場合このようなキーの並びとなります。 ですので、例えば「ら」の文字を打ちたい場合は、前の状態で「☆」のキーを押した後にホームポジション左手中指の「ら」のキーを押下して入力します。
月配列を使うには
Windows
DvorakJ にて簡単に導入頂けます。 左記サイトから「実行バイナリ版」をダウンロードして頂きまして、ダウンロードした zip ファイルを適当な場所に解凍します。 その後、解凍したフォルダの中にある DvorakJ.exe を実行してください。
DvorakJ を起動すると、設定メニューが表示されます。 初期状態では月配列が入力できる状態になっておりませんので、まずこれを設定します。
- 左メニューから「日本語入力」を選択
- 日本語入力用配列の設定ファイルを選択するものが表示されるので、「選択」を押下
- 月配列 2-263 式の設定ファイルを選択する。設定ファイルは DvorakJ のフォルダ以下 /data/lang/jpn/順に打鍵する配列/月2-263.txt にある
- 日本語入力の設定で「日本語入力用配列を日本語入力時にのみ使用する」を選択する
ここまで行ってからメモ帳やブラウザのアドレス欄などで「試し書き」を行ってください。
尚、イータイピングやタイプウェル等の既存のタイピング練習用のソフトを使用する場合は、 日本語入力の設定で「日本語入力用配列を常に使用する」を選択してください。 「タイピングを練習する時」と注釈があるのですぐに分かるかと思います。 このモードの時、日本語入力 IME (Google 日本語入力など) が OFF の時でも JIS かなでの IME OFF 時と同じ半角英数字が発行されるようになります。 既存のタイピングソフトは JIS かなの練習の時でも IME OFF 時の半角英数字の入力を頼りに入力の判定を行っているため、これでうまくいくわけです。
macOS
OS X El Capitan 以前は Karabiner で設定することが可能だったようですが、現在 macOS Sierra には対応されていないようです。 Karabiner-Elements を使用して設定できるかもしれません (ごめんなさい、未検証です)。
月配列の利点
ローマ字の場合母音以外は 2 打鍵若しくは 3 打鍵で入力しますが、前述の通り月配列では使用頻度の高い多くの文字を 1 打鍵で入力することができます。
JIS かなはキーボードの最上段をフルに使用する為、特に「ほ」「へ」「ー」を入力する際に手を大きく移動させないと入力することができません。 その為、これらの文字を入力した後の打鍵でホームポジションに戻りきれずにミスをしてしまう事があります (勿論鍛錬次第でミスをせずに入力することも可能ですが、あくまでミスし易いという事を申し上げておきます)。 また、標準の運指だと右手小指に非常に多くのキーが割り当てられておりますので、キーボードを使用する機会の多い方などは工夫しないと右手小指を痛めてしまう結果になることもあります。 月配列ではほぼローマ字と同等のキーのみ使用しますのでこういった問題はありません。
JIS かなは多くの文字を Shift キーなしの 1 打鍵で入力できる為月配列よりも打鍵数は少なくなりますが、「ょ」「っ」は月配列では 1 打鍵で入力できる為ワードによっては JIS かなよりも快適に打鍵することが可能です。
月配列の欠点
月配列だけでなく新下駄配列やその他のマイナー配列全てに共通する事ではありますが、DvorakJ などのキーリマップ用のソフトを使用しないと快適に使用することが出来ません (月配列に関して言えばローマ字互換性があるので Google 日本語入力のローマ字変換テーブルをカスタマイズする事によって使用が可能ですが、快適かどうかは疑問が残ります)。 これは、例えば共用 PC などの自由にソフトを入れることができない環境だったり、他人の PC を一時的に借りて作業をする場合は緊急手段としてローマ字を打つ事になるかもしれないという事です。
一部のワード、特にカタカナ語はローマ字や JIS かなに比べて苦手な傾向があります。 これは「ぁぃぅぇぉ」が 2 打鍵であり、且つ「ー」も 2 打鍵の為単純に打鍵数が多いという事です。 月配列 (2-263 式) のこの弱点を補う為に多くの方か派生配列を考案されています。
イータイピングやタイプウェルを使用する場合、 中指シフトの押下状態が画面上に一切表示されない為「自分は中指シフトを押していないつもりだったが実は押されていた場合にシフトが必要な文字を入力する時」などに連続してミスをしてしまう場合があります (月配列の連続シフトミス問題)。 月配列のこういったソフトを利用したタイピング競技への適正には疑問が残るところですが、これは月配列自体に欠陥があるのではなくマイナーであるが故の悲劇と言えます (タイピングソフト側が月配列であることを認識しシフト状態を解釈・表示してくれればこの問題は起きません)。
派生配列
2-263 式の一部のワードが苦手な点を改善したり、全ての濁音や半濁音、拗音などを別々のキーに配置し更に使い勝手を高めた配列も多数考案されています:
月配列 U9
DvorakJ に初めから設定ファイルが含まれています。 中指だけでなく薬指もシフトに割り当てている配列です。 全ての文字を 1 打若しくは 2 打で入力することができます。 また、長音記号「ー」が 1 文字で打てる上一部の拗音用のキーが用意されている為 2-263 式よりもカタカナ語に強くなっています。 但し、句読点は 2 打鍵になっていますし、キーの数が多いため 2-263 式よりタッチタイピングの習得が難しくなっています。
月配列 3-285 改
こちらも DvorakJ に初めから設定ファイルが含まれています。 左手は中指シフトのみですが右手は中指に加え薬指、小指もシフトキーとなっています。 濁音、半濁音に加えて全ての拗音も別キーとなっていますので、タッチタイピングの習得が更に難しいかと思われます。
月配列 T3.1
2-263 式と同様のシフト位置で仮名のみ入れ替えた配列ですので 2-263 式と同様の学習コストとなっています。 ホームポジション (中段) に比重を置いている 2-263 式に対し上段に比重を向けているのが特長のようです。 これにより、ローマ字で打つ感覚に近づいているそうです。 また、長音はローマ字同様ハイフンで 1 打で入力するようです。
月配列 K
私も月配列 2-263 式を使用していくにつれて、前述したような欠点を感じるようになってきました。 このまま使い続けることもできたわけですが、私は数字に関しては常に半角英数字で入力するスタイルをとっておりますので月配列 2-263 式における数字の部分のキーは使用しておりませんでした。 ここにキーをいくつか移動することで前述の不満点が解消できるのではないか、と考えました。
この私の月配列 2-263 式の四段拡張カスタマイズ版を以下月配列 Kと呼称します。 月配列 K は以下のような配列図で構成されます:
通常の状態 (中指シフト非押下時)
|ふ|ら|ゅ|ゃ| | |も|ー| | |
そ|こ|し|て|ょ|つ|ん|い|の|り|「|」
は|か| |と|た|く|う| |゛|き|れ|
す|け|に|な|さ|っ|る|、|。|゜| |
中指シフト押下後の状態
ぅ|ぁ|ぃ|ぇ|ぉ| | | | | | |
ふぁ|ひ|ほ|ちぇ|め|ぬ|え|み|や|ふぇ| |
ち|を| |あ|よ|ま|お| |わ|ゆ| |
ふぃ|へ|せ|てぃ|でぃ|む|ろ|ね|・|ふぉ| |
月配列 K が目指したもの
中指シフト押下状態が把握できない時に連続打鍵ミスするヒューマンエラーの改善
月配列 2-263 式の場合、中指シフトに相当する D キーと K キーに関する挙動は以下の通りとなっています:
- 中指シフト押下状態でない時は中指シフト押下状態とする
- 中指シフト押下状態の時は「ら」若しくは「も」を出力する
この挙動のために、前述の「シフトを押したか押していないか分からずに連続してミスをしてしまう現象」が起きてしまう場合があり、メモ書きなどで使用しているとストレスを感じることがありました。 月配列 K では D キーと K キーには「ら」と「も」を配置しておりませんので、 中指シフトのキー押下は中指シフト押下状態に関わらず中指シフト押下状態とするという挙動となります。
これにより、中指シフトの打鍵状態が分からなくなった場合は、次に中指シフトが必要な場合は D か K キーを押下し、 そうでない場合はシフトキャンセルに当たるキーを押下する、という操作でリカバリーが可能となりました。
カタカナ語への対応の改善
月配列 2-263 式はカタカナ語で多く使用される「ふ」や「ー」がシフト側に存在するため、カタカナ語を多く打たされる場面でどうしても不得手を感じる時がありました。 月配列 K では、これらの弱点解消のために最上段にそのまま「ふ」や「ー」キーを移動しました。
また、月配列 U9 の特殊音拡張である「ちぇ」「てぃ」「でぃ」「ふぁ」「ふぃ」「ふぇ」「ふぉ」をシフト側に取り入れることで打鍵数を削減することに成功しました。
これによりシフト側最上段で若干押しにくい小書き文字「ぁ」「ぃ」「ぅ」「ぇ」「ぉ」は押す回数が大幅に削減されました。
詳しくはU9 特殊音拡張を取り入れた効果を参照ください。
拗音における 2-263 式の不自然な 2 打鍵の解消
月配列 2-263 式では「ょ」が単打できるのに対し「ゅ」「ゃ」が 2 打かかるので、打鍵時に「ょ」と「ゅゃ」を見間違えた場合に間違えて中指シフトを押下してしまいリカバリーさせられるといった問題がありました。 月配列 K では月配列 2-263 式の「ゅ」「ゃ」の横の位置をそのままに最上段に移動しましたので、無理なく「ゃゅょ」を用いた打鍵を行うことができます。 月配列 2-263 式の「ょゅゃ」は、頻出する「し」とのコンビネーション (しょ、しゅ、しゃ) で打鍵しやすいように考えられた配置であり、月配列 K でもそれを踏襲しています。
月配列 2-263 式との高い互換性
月配列 K は月配列 2-263 式に対する純粋な四段拡張版であり、オリジナルの月配列 2-263 式と高い互換性を誇ります。 月配列 2-263 式にある程度慣れた方であっても移行することは比較的容易です。 また、月配列 K が肌に合わないと感じた場合でも、逆に月配列 2-263 式に戻ることも容易です。
筆者の月配列学習の歩み及び試行錯誤
私の Blog の月 2-263 タグ と 月配列 K タグを参照ください。 JIS かなから月配列に転向した軌跡及びタイプウェルの成長記録、及び試行錯誤がご覧頂けます。