まず、今から書くものはあくまで月配列 2-263 式の簡単な自分用カスタマイズ案である事を述べておく。 ただ、これはもう月配列 2-263 式を名乗れるものではないし、「マイ月配列」といった曖昧な呼び方は好まないので以後私の月配列カスタマイズ案の最新版を 月配列 K と呼称する。
発端は 2-263 の長音問題
月配列 2-263 式の長音問題はとても悩ましい問題であった。 長音が殆ど出てこないような文を書いているのであればいいのだが、技術系の文書を書いている際は割とカタカナ語が出現する。 その為、中指シフト + 右手薬指という運指はとても打っていられず、私なりに試行錯誤しつつハイフンに置いたり JIS かなの「む」の位置に置いたりして試したわけだが、そうすると今度は長音の担当が右手小指になってしまう。 月配列 2-263 式はただでさえ右手小指が連続しやすい弱点を抱えている。 例えば「律儀」「歴史」「地理」などである。 これに長音まで加わるとこの傾向が更に加速し、例えば「キー」「レース」「チーズ」などであまり快適ではなくなる。
この同一の指で連続してキー操作を行うのが人差し指や中指の場合あまり気にならないのだが小指にした途端妙に気になるのである。 弱い小指はなるべく連続して使いたくないというのが常にあった。 だが、小指以外に配置しようにも他に配置できる場所がない……。 いや、よく探すと最上段があるではないか! 私は JIS かなの時から日本語入力時の数字入力は一切使用していない為月配列 2-263 式の最上段は「死にキー」となっていた。 この数字キーを全部取っ払って、今までもやもやしていた「このキーがアンシフト側にあればいいのに」というキーをできるだけ持ってきてみようと考えた。
議事録で発見した最大のミス誘発原因となっているキー
私は月配列を仕事でも活用している為議事録を取るなど行っている。 この議事録を取るという行為は相手の話を聞きながら行わなければならない為どうしてもタイピングする方の意識が疎かになりがちである。 逆に言うと問題が顕在化しやすい環境と言える。
私が議事録を取っていて一番感じたのは、とにかく中指シフトを押す回数が多すぎてシフトミスを起こしがちであまり快適ではないという事だった。 中でも一番ミスを誘発しやすいキーは中指シフトのキー自体を兼ねている「ら」と「も」 であった。 この 2 つのキーは必ず交互打鍵で打たなければならないのだが、気を抜くとシフトを押したか押してないか分からない状態となり連続で間違えてしまう原因となっていた (月配列使いが満足できるタイピングサイトの仕様を考えるも参照)。
あと、この 2 つのキーがあるせいで妙にホームポジション率が上がってしまい「同じような位置のキーばかり打たされ自分が今どこを打っているのか分からなくなる現象」が起きてミスをしてしまうのである。 例えば「もらう」「おもわない」等、単独で打てば間違わないのだが文の中に紛れ込んでいる時などどこを打っているのかわからなくなり前述のシフトミスを起こしてしまい連続で間違えてしまう原因となっている。
この「ら」と「も」を別の位置に置くだけでケアレスミスがかなり減るのではないかと私は考えた。 中指シフト自体には文字を配置しない。 こういう発想の月配列は今までなかったような気がする (自分が知らないだけかもしれない)。
ちなみに DvorakJ でこのような配置にすると、中指シフトのキーは何度押してもシフトされた状態が継続され文字若しくはキーコードが発行されない。 つまり「自分がシフトを押したかどうか分からなくなった」時は焦らず騒がず、次の文字がシフトが要るのであれば再度中指シフトを押下、要らないのであればシフトキャンセルのキーを押下すればよいわけだ。 これもなかなか分かりやすく好都合である。
他に最上段に持ってきたいキーを洗い出す
tken 様の月配列 T をかなり参考にした。 まずカタカナ語にある程度強くしたいという欲求があったので「ふ」を持ってくるのは決めていた。 カタカナ語ではとにかく「ふ」が頻出するのである。 英語で「f」「ph」「b」「p」が付く外来語はほぼ「ふ」「ぶ」「ぷ」となるからだ。 「ファイル」「フィラメント」「トリンプ」「ファントム」「ブラインドタッチ」「プリンタ」「プール」など数多い。
後、「せ」も欲しかった文字の一つだ。
かな文字頻度表を見ても「せ」「ぜ」の出現頻度はかなり高く、2-263 のアンシフトにある「そ」や「け」を上回る頻度なのである。
氷陰様の指摘により私が調査不足で嘘を書いてしまっていた事が分かった。
出現頻度的には「け、せ、そ」の順である。
今回の月配列 K ではどれもアンシフト側に出しているので問題はないのだが、ここに間違いを訂正しておく。
また、「ゅ」と「ゃ」も是非欲しかった。 2-263 式の時「ょ」と「っ」は中指シフトしないが「ゅ」「ゃ」は中指シフトをする、という不一致によりちょくちょくシフトミスしていたし、直感的ではないと感じていたからだ。
あと、アンシフト面だが「ち」が @ の位置にありあまり快適ではない上に右手小指の連続打鍵の原因になっていると考えた。 このキーも可能であれば移動したい。
移動位置の選定
矛盾した事を書くようであるが、私はなるべくオリジナルの 2-263 式の打鍵感を崩したくなかった。 つまり、例えば「ゅ」「ゃ」であればオリジナルで左手人差し指が担当しているので、そのまま左手人差し指で担当したい……などである。
ただ、「ゅ」「ゃ」に関してはほぼ迷うことなく位置が決定した。 月配列に少しずつ慣れてきたので工夫するで述べた通り、「ゅ」「ゃ」に関してはかなりの確率で頭に「し」が付き、後ろに「ん」や「う」、「つ」等の右手人差し指のキーが来る。 また、頭は「し」の他に「ち」や「み」、「り」等が来る。これらは右手でそれぞれ担当している。 つまり 2-263 式の「ゅ」「ゃ」の位置がここしかない、という位によく出来ており、それをそのまま上に持ってくるだけでいい感じになりそうである。 よって、「ゅ」は 4 のキー、「ゃ」は 5 のキーに配置することにした。
次に 2, 3 の位置であるが、必ず左手側に持ってこなければならないキーが存在する。 「ふ」と「せ」である。 この 2 つはそれぞれ濁点と半濁点が付与される。 2-263 式の濁点と半濁点はそれぞれ右手に存在するため、これらが付く可能性のある文字は殆どが左手の配置になっているし、濁点・半濁点のキーと同じ指にはこれらが紐づく可能性のある文字は配置されていない。
「ふ」と「せ」、どちらをどちらに配置しようかというところだが「せ」を 3 のキー、「ふ」を 2 のキーとした。 「せ」は元々左手中指の位置にあったので自然な位置であることと、「せ」を 2 のキーに置いたほうが同じ指を連続で使うワードが多いように見えたからだ。 例えば「世界」「稼ぐ」「戸籍」「世間」などである。 勿論 3 のキーに置くと「姿勢」「偽」などを取りこぼすのでトレードオフといったところだが、気にしすぎても仕方がない。 「ふ」に関しては 2 の位置だと JIS かなと同じ位置なので若干覚えやすくなっている。 こちらも「節」「シフト」「二歩」などは良くなるが「古風」「過負荷」「フケ」などが打ちにくくなるのだが仕方なしとみる。 繰り返すが小指の連続以外はそう気にならないので気にしすぎないようにしている。
「ら」「も」「ー」「ち」を残った位置に配置するわけだが、これが結構迷った。 残りは 6, 7, 8, 9 のキーである。 1, 0 のキーは標準運指で小指打鍵になるので良くない位置のキーとみて割り当てないこととしていたからだ。 1, 0 に割り当てるくらいならまだ @ や JIS かなの「む」に置いたほうがマシだと思うくらいである。
後、この中で 6 のキーだけは中指を大きく突き出さなければならずあまり快適なキーではない事を知っていた (JIS かなの「お」を想像すれば分かることだ)。 この位置は一番優先度の低いキーを割り当てようということで「ち」とした。 残ったキーは、やはり 2-263 と同指を優先しようと思い「ー」を 9 キー、「も」を 8 キー、残った「ら」を 7 キーとした。
この時点での DvorakJ の定義は以下のようになった:
/* 単打 */
[
|ふ|せ|ゅ|ゃ|ち|ら|も|ー| | |
そ|こ|し|て|ょ|つ|ん|い|の|り| |
は|か| |と|た|く|う| |゛|き|れ|
す|け|に|な|さ|っ|る|、|。|゜|・|
]
[d],[k][
| | | | | | | | | | |
ぁ|ひ|ほ| |め|ぬ|え|み|や|ぇ|「|
ぃ|を| |あ|よ|ま|お| |わ|ゆ|」|
ぅ|へ| | | |む|ろ|ね| |ぉ| |
]
実践
この状態で何度かタイプウェルで試し打ちしてみた。 「ふ」がとてもいい感じで、単打できるだけで全然世界が違って見えた。 また、「ゅ」「ゃ」の単打も直感的になり気持ちよく打てるようになった。 位置的にも 4 と 5 のキーは全く無理がなく、「しょう」と同じ感じで「しゅん」「しゃく」などと打ちやすい。
長音の位置もほぼ理想的といってよく、以前私が置いていた JIS かなの「む」よりは明らかに良くなった。 最上段といっても中指と薬指の位置は非常に押しやすく、「ソート」「チーター」「パール」なども無理なく打鍵できる。 「ゴート」「ボード」などの濁点の次に長音が来てしまうパターンだけまずいが、長音に関してはどこに配置してもこういう同指パターンが出てきてしまうのは避けられないので許容範囲とみた。
「ら」「も」に関しては効果のほどが分からなかったが、妙なホームポジション行ったり来たりのパターンは軽減された。 ただ、「ら」が若干指を突き出さなければならないので「いい位置」とはいえず、「可もなく不可もなく」といった感想だった。 しかしかな文字頻度表を見ても「ら」は「も」より出現頻度が低いので場所を入れ替えようという気にはならなかった。
ただ、「ち」に関しては 6 の位置だとかなり打ちづらいのがすぐ分かり、「まだ @ の位置の方がマシだ」と考え直した。 よって右手小指が連続するパターンは完全に改善できていないままだが、この版では許容することとした。
また、「ぁぃぅぇぉ」の位置が気になった。 これらはかなりの確率で「ふ」と結びつき、次点で「ちぇ」「うぃ」「うぇ」などと結びつき、更に「ぅ」はほぼ登場しない、という特性を持つ。 つまり 2-263 式の位置だと中指シフト + 各種小指、という位置であまり快適ではないし、「ふ」から遠いのである。 左手は「ふ」を打ってからあまり動かずに右手で中指シフトを押し、左手で該当キーを押下する、というオペレーションがベストである。 その為に最上段の「ふ」の周りに「ぅぁぃぇぉ」の順で配置することとした。 「ぅ」は 1 のキーだがほぼ使わないキー (「ふ」とは絶対に結びつかない) のため問題無しとする。
最終型
/* 単打 */
[
|ふ|せ|ゅ|ゃ| |ら|も|ー| | |
そ|こ|し|て|ょ|つ|ん|い|の|り|ち|
は|か| |と|た|く|う| |゛|き|れ|
す|け|に|な|さ|っ|る|、|。|゜|・|
]
[d],[k][
ぅ|ぁ|ぃ|ぇ|ぉ| | | | | | |
|ひ|ほ| |め|ぬ|え|み|や| |「|
|を| |あ|よ|ま|お| |わ|ゆ|」|
|へ| | | |む|ろ|ね| | | |
]
その他の 4 段配列
JIS かなが代表的な 4 段使用する配列であるが、その他に龍配列や弓配列があった。 龍配列は「かにポジション」(「か」と「に」に人差し指を置くホームポジション) を使うのでそもそも検討対象とはしなかった。 弓配列に関しても求めていたものとは違ったのだが、10 年以上前に書かれたであろうブログ記事が参考になった:
弓配列を始めてから気付いたのが、打鍵数は重要っていうことです。 打ちにくいとされる Q や @ のような位置も、前後の連なりがしっかりと考慮されていれば、ホーム段の2打よりもいいと思いました。 この辺りは個人差もあるのかな、と思いますが。
それから、交互打鍵を最重要視する必要はないんだな、とも思いました。
同意する。 単純に打数が多いとそれだけミスが増えるのである。 それがホーム段の連続打鍵であったとしてもだ。 今回問題視した「ら」と「も」の移動でその点を改善した。
打鍵数が減ったほうがいいということになると、4段配列もいいんじゃないかという気がしてきます。 先日ローナ作者のWineさんも4段配列のすゝめで、数字段でも中指・薬指を伸ばす位置はそれほど打ちにくくなく、活用できそうだということを書かれていました。
こちらも同意する。 中指・薬指の最上段は思ったよりずっと打ちやすい。 可能であれば 2, 3, 8, 9 の位置に置きたいキーを置くとそれだけで快適になるように見える。
また、2 ちゃんねるの月配列スレッドで 4 段配列を探してみると高月配列 (月 6-700) というものが紹介されていた:
■高月(こうげつ)
ぉぁぇほへゃゅひふぃぅ
そこしてょつんいのりち
はか☆とたくう★゛きせ
すけになさっる、。゜・
【☆★シフト】
1234567890
ぬゆやよれろみもめむ
ねおあえらーまをわ「」
・解説 最高段にも文字を配置することで、 打鍵数の削減を重視した配列。
2-263 のアンシフト面をそのままにして最上段にキーを持ってきたというコンセプトは同じだが、これに関しては「へ」「ほ」があまり嬉しくない上に「ゃ」「ゅ」の位置も悪く、「ぶ」「ぷ」が非常に打ち辛いという事で採用するには至らなかったが、それにしても「ふ」「せ」「ゅ」「ゃ」あたりを持ってくるという視点は同じだ、と感心させられた配列である。
総括
月配列 K は以下の特長を持つ実験的な配列である:
- 月配列 2-263 式のアンシフト面をそのまま持ち移行が容易
- 中指シフト自体に割り当てられたキーを排除しケアレスミス削減に寄与する
- 長音の打鍵感大幅向上
- カタカナ語に関する打鍵数を大幅削減
- 拗音の打鍵感向上
尚、最上位段を使用している為、月配列の長所であったローマ字実装も可能という利点をスポイルしてしまっている点にも注意されたい。
追記
ローマ字実装に関してであるが、数字段のキーは活用できないものだと思っていたのだが問題なく実装できるであろう事を tken 様にアドバイス頂いた (スラッシュのみ割当て不可だがこれは 2-263 式も同様の話である)。