ウィズ・コロナ時代といっても私はたまに電車で会社に出勤している。 今日もそんな日で普通に電車に乗って、乗り換えの駅で階段を歩いていたときのこと。 前の女性がパスモ入れらしきものを落とされた。 こんなものを落としてしまうようでは次にとても困ってしまうだろう。 そう思って咄嗟に拾い上げて駆け足で追いついて肩をポンポンと叩く。 女性が振り向いたら「落としましたよ」と言ってそれを差し出す。 女性は「あっ……」とだけ言ってそれを受け取る。 そして私は何も言わず去っていく。 そんな感じだ。
電車で毎日のように通勤していると、こういうことがたまにある。 何故自分の目の前で落とすのだろうかと思ってしまうのだが、それでもそれなりの頻度で起こってしまうのだから仕方がない。 しかも今覚えている中でこれはすべて女性だった。 女性はこういうものを落としやすいのだろうか。 ポケットでなくバッグに、しかも中途半端に入れている場合が多いからなのだろうか。 落としたら致命的だと思うのだが、何だか危なっかしい。
ちょっとした機転で人助けができたが、お互い知らない間柄で接点はその一瞬だけ、そしてこの後もう二度と会うことは無い。 見返りなど要求するはずがないので、こういうのは何か好きだ。 面倒なことが何もなく、単純にちょっとした気配りだけで人の役に立てたと実感するからだ。 仕事上とか自治会、趣味上とかの長い付き合いになると、ギブ・アンド・テイクの関係が気になってしまうのが良くない。 恩があるから恩で返そうとか、それを期待して立場が強い人に近寄っていくとか、要らないことを考えてしまう。 本当はすべての前提がない状態のほうがいい。